医療法人 田辺整形外科医院 『湿潤療法』




傷の応急手当☆治りが早い『湿潤療法』

擦り傷や切り傷が早く治る最新の治療法として注目されているのが、消毒液は使わずに、傷口を水道水でよく洗い、防水性のフィルム剤などで覆う湿潤(しつじゅん)療法です。

 これまで擦り傷、切り傷については、傷口を消毒し、乾かした方が早く治ると言われてきました。しかし、欧米では40年ほど前から、傷口は消毒せず、また乾かさない方が治りが早いという報告があり、近年、湿潤療法が一般的な治療として行われています。
 わが国では、床ずれの治療に湿潤療法が大きな効果をあげたことから、2、3年前から、擦り傷や切り傷の治療に用いられるようになりつつあります。
 傷ができたときによく施される消毒は、雑菌も殺しますが、傷を治す働きのある細胞成長因子や、生えてきた皮膚細胞 も殺してしまうので、治りが遅くなります。
 当院では、昨年から、傷を負って救急できた患者さんに、湿潤療法を行っていますが、患者さんから「治りが早い」「痛みが少ない」「傷がきれいに治った」といった声が、多く寄せられるなど成果を上げています。
 家庭で行う場合の湿潤療法としては、擦り傷や切り傷のなど比較的浅い傷で、まず、傷口のちょっと上から水道水で砂や泥などをよく洗い落とし、その後、防水性の絆創膏でしっかり覆ってください。それらがない場合は、家庭用ラップで覆って もらっても結構です。  湿潤療法では、しばらくすると傷口がじくじくしたり、浸出液がしみ出てきたりしますが、心配いりません。液がしみ出してきたら、ガーゼなどで軽くふいてください。 毎日、防水性絆創膏などをはずして、シャワーとせっけんで傷口を優しく洗って下さい(日本の水道水には塩素が含まれているため、ほとんど細菌は存在しません)。そして、防水絆創膏を張る。それを繰り返していくうちに痛みはなくなり、ピンク色の新しい皮膚が張り出してきて、傷が治ってきます。
これが家庭でできる傷の応急手当の新しい方法です。
 この湿潤療法の利点は、治りが早いことなどのほか、傷口が早く治るので縫わなくても済む可能性があることなどです。 出血している場合は、しっかりと傷口を押さえて止血し、止まらない場合や、傷が大きくて深さの判断が難しい場合や、水道水で洗ってもきれいにならない汚ない傷、感染(化膿(かのう))が疑われる傷、そして糖尿病などの持病を持っている場合は、医療機関での診察を受けることが望まれます。
大切なのは、かさぶたにしないこと。傷口が乾かないよただ、うに密閉して潤す方法をおすすめします。
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 皆さんはすり傷や切り傷を負ったとき、消毒してかさぶたができれば治ると思っていませんか。長い間、そういう考え方の基に治療が行われてきましたが、傷口は密閉して潤いを保つ方が早く治ることが証明されてから、傷の治療は「乾燥」から「湿潤」へ転換しました。現在、最先端の外科系医療では湿潤環境を保つ治療(モイストヒーリング)が主流です。
 なぜ傷口を潤したほうがいいのか。それは、傷口からしみ出てくる透明〜赤褐色の滲出液には、傷を修復する細胞を助ける働きがあるからです。ですから傷口を密閉して滲出液を保つ方が、早くきれいに治すことができるのです。また、傷口を密閉するため、細菌の感染リスクが減り、乾燥による神経への刺激も減るので、痛みも少なくなります。

傷の見きわめが大切
 傷を負ったら、まず水道水で傷口の砂やごみ、細菌などをしっかり洗い落とします。そして家庭で治療できるか、病院へ 行った方がいいのかを、傷の原因や状態で見きわめましょう。目安は次の通りです。

 ●家庭で治療できる傷
 ・直線の浅い傷
 ・皮膚の表面をすりむいた小さい傷
 ・靴ずれや軽いやけど

 ●病院で治療が必要な傷
 ・傷口がギザギザの傷
 ・傷口が小さくても深い傷
 ・異物が奥に入ってしまった傷
 ・出血がひどくて止まらない傷
 ・動物に咬まれた傷

湿潤療法

医院内

湿潤療法

なぜ「傷にガーゼ」はだめなのか

新しい創傷治療−『消毒とガーゼ』の撲滅を目指して,「乾燥させて治す」,「消毒してガーゼをあてる」といったこれまでの創傷治療のあり方は、創傷治癒には、好ましくない。培養細胞と同様に創傷部の真皮や肉芽組織の細胞も乾燥すると死んでしまうことが指摘されており,このため創傷部は適度な湿潤環境に保つことが重要である。また,創傷部から分泌される浸出液には細胞成長因子が含まれており,創傷をハイドロコロイドや親水性ポリウレタンなどの創傷被覆材で覆うことにより,治癒に最適な環境を提供できる、実際に創傷が治癒していく過程の写真を参照します。
 そして,これに対して従来用いられているガーゼは創面を乾燥させることで細胞から水分と細胞成長因子を奪い,また創面に固着するため交換処置の際に疼痛,出血を引き起こし,創面にガーゼを当てることで傷は治りにくくなり,患者の苦痛も大きくなってしまいます。

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どんな効果が期待できるの?

閉鎖療法による創傷治療
自転車で転倒し受傷。水道水で洗浄後(Fig.1),創傷被覆材とフィルムドレッシング材により密封閉鎖(Fig.2)。受傷4日目でほぼ完全に治癒している(Fig.3)。
(夏井睦著『これからの創傷治療』〔医学書院〕より)

消毒に「異議あり!」

発赤,疼痛などの感染症状があるのが創感染であり,創面に細菌がいるだけでは創感染ではない。細菌単独で創感染を起こすにはきわめて大量の菌数が必要であり,そのようなことは通常起こりえないが,創内に異物・壊死組織があると非常に少ない菌数でも感染を起こしてしまう。
 このことから創面の感染予防において重要なのは消毒による細菌の除去ではなく,洗浄や外科的デブリードマンによる創内の異物の除去である。また消毒を行なっても短時間のうちに皮膚常在菌が創面に移動してくることから、消毒には創感染の予防・治療効果はない。
 さらに,消毒薬の細胞障害性は細菌よりも創面の細胞に対しての方が大きいため,消毒薬は創傷治癒を阻害するゆえに,手術の執刀前やカテーテル挿入など消毒が本当に必要な処置以外は消毒を行なうべきではない。
 結論:消毒をやめ,きれいに洗浄したうえで創傷被覆材を使用すれば,創傷はきわめて速やかに,最小限の瘢痕で治癒する。